任天堂のイノベーションに対する悟り

任天堂の悟りの境地が凄過ぎる。

株主・投資家向け情報:2010年3月期 第2四半期(中間)決算説明会 質疑応答

 我々のビジネスというのは、皆さんが、「そんなことやって常識としてうまくいくんだろうか」と思うようなものが、何かのきっかけでポンっと化けた時に大きく成長する、大きく伸びる余地のあるビジネスなんです。

まず、こういう場でしっかり「うちの経営は博打みたいなもんです。」という認識をはっきり示しているのが凄い。IRの場で。

ただ、勝ち目の無い博打ではないことが経験上分かっているということを、続いて語る。
 

ちょっと昔の話ですが、「ポケモン」が世界中で売れると誰が思ったでしょうか。「脳トレ」が世界中で売れると誰が最初から感じたでしょうか。「Wii Fit」がこんな商品に化けると、最初から見通せていた人はいったい世の中にどれだけいらっしゃったでしょうか。「トモダチコレクション」が初回受注10万本であったということは、「10万本あればしばらく大丈夫だ」と日本中の専門家の皆さんがそう考えられたということなので、「そういうことを打ち破るものをどう作るか」なんですが、すべて計算して作ることはできません。

すべては計算出来ないが、ある程度の鼻は聞くし、沢山種は蒔いている。だから経験上、どれかは当たるはずなんです。
イノベーティブな物は沢山出しているけど、全部当たるなんて考えてない。
ましてやどのぐらい当たるなんて、当初から予定して作れやしないよ。という、MBAホルダーなみだ目なご意見。
 
 
続いて、経営者としての領分、領域について語る。

一方で私は公開企業の経営者ですので、一定以上の打率でそれを実現し、増収増益を目指していく責任があるわけです。私自身は、いろいろなところで「任天堂は後手に回っているんじゃないか」というご批判があるのは当然理解しているんですが、一方で、あらゆるところに先手を打つほど任天堂にリソースはあるのかと思うわけです。任天堂は自分の得意なことに集中してやっていませんと、人数の多い会社ではありませんので、あっちもこっちも、こういうことがはやりそうだからここに手を打ち、あそこでこれからはこうだ、という人がいたからそのための準備をし、なんてことをやっていると、あっという間にパワーが分散してしまいます。むしろ、「そんなことうまくいくの」と人が思うかもしれないことに、実はひそかに、しっかりとエネルギーをかけて、気がついたらそれが化けていたという状況を作るのが私の仕事です。それを一定以上の打率で成し遂げられていれば任天堂を認めていただけるし、成し遂げられなければ、「あの時が曲がり角だった」と言われると思うんです。


経営者としては、どこにどのぐらい種を蒔いて、どのぐらい世話をしてやるか…までしか、決められないと。
はっきりここで「確率」と言っている。経営者として、ベターと思われるリソース配分をしているけど、それ以上は確率であると。
 
社会の動向がどうだから、こういうものが…という分析論から入るのではなく、まずエンターテイメントを提供する上で何が大事か、何が出来て何が出来ないかというのを、はっきり認識している。
だからこそ、過度なリソース配分も避けられているのではないか。
ドクターマリオを作っていて、何でこんな経営者になれるんだろうか…現場の経験を生かす経営とは言うが体現するのは、さぞ大変だったと尊敬する。

 当然、私たちは次々と作っている商品それぞれに、「どうせ作るなら化ける可能性があるものを作ろうよ」と考えて進めています。そうでなければ、「トモダチコレクション」を3年以上開発し続けるなんてことをするわけがないのです。でも、では3年以上かけてゆっくり、じっくりと開発したら全部「トモダチコレクション」のようになるかというと、ならないわけで、その目利きをするのが私や宮本のすごく重要な仕事で、その目利きの打率が今のところある程度良いので、今の任天堂の結果があるんだと思っています。ですから、過去何年かの私たちの目利き力を信用していただいて、任天堂はこれからも化ける可能性のあるソフトを提案していくんだということについて信頼していただく以外にマーケットの皆さんにメッセージを出せないわけです。

 
非連続な時代に計算なんて通用しないよという痛烈なメッセージ。
 
イノベーションを起こし続けることを宿命付けられた会社の矜持のようなものを凄く感じます。
こういう事、リスクを適切に取れて、なおかつ致命的なダメージを受けないこと。
 
任天堂は何か悟っている老子のようだ。